手固いものを愛します。――さてそろそろ夏が来ますが、浴衣《ゆかた》を着られるのはまた何としても愉《たの》しいことです。何が何だと云っても浴衣の着心地は素敵です。巴里ではどんなにか浴衣が恋しかったものでしたが、おそらく、浴衣のように肌ざわりのすずやかな着物は他の国にあまりないでしょう。二、三度水をくぐらせた頃の浴衣はなかなかいいし、柄は単純なのが好きです。
よく、呉服屋では高価な衣裳祭はしても、浴衣祭と云うのをしませんが、浴衣こそは、ブルジョワもプロレタリアも祝っていいと思います。ただし、不思議に浴衣だけは、「やはり野におけ蓮華草《れんげそう》」で、昼間の外出着にならないのが残念です。浴衣に襦袢《じゅばん》の襟《えり》を出し、足袋に草履《ぞうり》をはいたら何ともなさけない姿になりましょう。
夏になるとあっぱっぱ[#「あっぱっぱ」に傍点]と云うのが流行りますが一風景です。なかなかいいと思います。一度着てみたいと思います。だが、やっぱり私はみえ坊[#「みえ坊」に傍点]だから、「層々として山水秀ず、足には遊方の履《くつ》を躡《ふ》み、手には古藤の枝を執《と》る」の境地をもとめてりりしい着物
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