ゐるので厶いますから」
 で、私は苦笑しながら、子供のやうな此お爺さんの生活を訊いてみますと、息子が東京にゐるのですが、住所も判らず、晝は各村々の官主か何かに頼まれ、夜は按摩をするのだと云つてゐました。
「官主をしながら按摩をすると云へばをかしゆう厶いますが、これでも人樣に迷惑をかけず、自活をしてをるので厶いますからへえ、百姓も少しはやつてをりますが、官主をしてをりますので下肥《しもごえ》だけはいらはない事にしてをります。……淋しいもンで厶いますよ……」
 此按摩は繁太郎と云ふのださうです。生れて始めて私は此樣に長命な按摩さんに肩を揉んで貰つたので長生きするだらうと思つてをります。

    三信

 大島へ來て始めてカラリとした天氣、今日こそ歩けると、三日目の朝です。歪んだ机の上に地圖を擴げて色々な計畫をたてゝ見ました。
 私の番に當つた、島の娘だと云ふ、お八重と云ふ女が「波浮はとてもいゝところです。是非お出でになつた方がいゝですわ」と云ふので、次手の事にと、亦乘合自動車に乘つて波浮への道を北側の汀を見ながら行きました。どこへ行つても椿です。血のやうな花がいつぱい盛りでキレイでした。
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