茸やわさびが名産なのでせう。小さな自動車待合所に、そんなものがごたごた並べてありました。
街道が、峽《はざま》の上にあるので、谷底の家並がひとめです。朝のせいか、湯煙りが川にたちこめてゐて、山の温泉らしさうです。
下賀茂、蓮臺寺、河内などもいゝ温泉だと聞きました。本當は、こつとりこつとり歩きながら、此樣な地を探ぐつたら面白いだらうと思ひます。
湯ヶ島は、元村の宿にくらべると、宿料も安い位だと思ひました。それに何も彼もが清潔です。
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たそがれて
峽のまちを吾が自動車《くるま》
ひたに走りぬ愉しかりけり
山鳩の啼く谷道の
土ほこり
花火と散りてわれなつゝみそ
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このやうな歌二ツ出來たのですが、下手ながら、歌はずにはゐられないやうないゝ風景です。――今夜はいよいよ東京です。修善寺の驛へ出て、古ぼけた地圖を見てゐますと、「大島は再び行きたいところでもない」と云つた氣持ちです。
それ程、下田から湯ヶ島へかけて、私の心をとらへてしまつたのでせう。ところで、驛で新聞を買つてみると、亦、大島での自殺の記事ですが、ひどく心を寒くします。もうあ
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