淋しく手を握りあつて歩いたのです
ガラスのやうに固い空気なんて突き破つて行かう
二人はどん底[#「どん底」に傍点]を唄ひながら
気ぜはしい街ではじけるやうに笑ひました。
[#改ページ]

 馬鹿を言ひたい
    ――古里の両親に――

千も万も馬鹿を言ひたい……
千も万も馬鹿を吐鳴りたい……
只何とはなしに……

こんなにも元気な親子三人がゐて
一升の米の買へる日を数へるのは
何と云ふ切ない生きかただらう。

呆然と生きて来たのではないが
働き馬のやうに朝から晩まで
四足をつゝぱつて
がむしやらに
食べたい為に
只呆然と生きて来てしまつた!

親子三人そろつて
せめて
千も万も 千も万も
馬鹿を吐鳴つたらゆかいだらう。
[#改ページ]

 酔醒

なつかしい世界よ!
わたしは今酔つてゐるんです。

下宿の壁はセンベイのやうに青くて
わたしの財布に三十銭はいつてゐる。

雨が降るから下駄を取りに行かう
私を酔はせてあの人は
何も言はないから愛して下さいと云ふから
何も言はないで愛してゐるのに
悲しい……

明日の夜は結婚バイカイ所へ行つて
男をみつけませう――

わたしの下宿料は三十五
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