淋しく手を握りあつて歩いたのです
ガラスのやうに固い空気なんて突き破つて行かう
二人はどん底[#「どん底」に傍点]を唄ひながら
気ぜはしい街ではじけるやうに笑ひました。
[#改ページ]
馬鹿を言ひたい
――古里の両親に――
千も万も馬鹿を言ひたい……
千も万も馬鹿を吐鳴りたい……
只何とはなしに……
こんなにも元気な親子三人がゐて
一升の米の買へる日を数へるのは
何と云ふ切ない生きかただらう。
呆然と生きて来たのではないが
働き馬のやうに朝から晩まで
四足をつゝぱつて
がむしやらに
食べたい為に
只呆然と生きて来てしまつた!
親子三人そろつて
せめて
千も万も 千も万も
馬鹿を吐鳴つたらゆかいだらう。
[#改ページ]
酔醒
なつかしい世界よ!
わたしは今酔つてゐるんです。
下宿の壁はセンベイのやうに青くて
わたしの財布に三十銭はいつてゐる。
雨が降るから下駄を取りに行かう
私を酔はせてあの人は
何も言はないから愛して下さいと云ふから
何も言はないで愛してゐるのに
悲しい……
明日の夜は結婚バイカイ所へ行つて
男をみつけませう――
わたしの下宿料は三十五
前へ
次へ
全28ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 芙美子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング