に大きく あんなに大きく
あゝやつぱり淋しい一人旅だ。
[#改ページ]
善魔と悪魔
まあ兎に角貴方との邂逅を祝しませう
―淋しい人生ぢやありませんか
全く生きてゐる事が
イリウジヨンではないかと思ふ事さへありますよ
或ひはそうかも知れないけれど
此頃つくづく性慾から離れた
心臓が機関車になるやうな
恋がしてみたいと思ひます。
性慾アナーキズム
貞操共産主義も鼻について来ましたからね
やつぱり私の心臓の中にも
善魔がゐるんですね。
―驚きましたね
悪魔が私を裸踊りさせるやうに
善魔は私をおだてあげるのです。
まつて下さい!
今に人間生死薬を発明するつもりです
全くいつも思ふ事ですが
広い海の上をひとつぱしり
歩ける機械が欲しいですね
―まあゆつくり話しませう
まだ生きてゐるんでせう……
貴方も私もまだ二三十年あるんです。
小さな地球の上ではからずも
貴方と邂逅したことは
因果を説かなくても当然の事ですよ
人間万事タナカラボタモチ主義
思切れば数へ切れない程の主義がありますね
それも皆善魔と悪魔の戦ひです。
結局は大口いつぱいの空です
どうです十本入り六銭の
蒼ざめ
前へ
次へ
全28ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 芙美子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング