並そろへて街の片隅を歩いてゐた
同じやうな運命を持つた女が
同じやうに瞳と瞳をみあはせて淋しく笑つたのです
なにくそ!
笑へ! 笑へ! 笑へ!
たつた二人の女が笑つたつて
つれない世間に遠慮は無用だ。
私達も街の人に負けないで
国へのお歳暮をしませう。
鯛はいゝな
甘い匂ひが嬉しいのです
私の古里は遠い四国の海辺
そこには
父もあり
母もあり
家も垣根も井戸も樹木も……
ねえ小僧さん!
お江戸日本橋のマークのはいつた
大きな広告を張つておくれ
嬉しさをもたない父母が
どんなに喜こんで遠い近所に吹ちようして歩く事でせう
―娘があなた、お江戸の日本橋から買つて送つて下れましたが、まあ一ツお上りなしてハイ……
信州の山深い古里を持つ
かの女も
茶色のマントをふくらませ
いつもの白い歯で叫んだのです。
―明日は明日の風が吹くから、ありつたけのぜに[#「ぜに」に傍点]で買つて送りませう……
小僧さんの持つた木箱には
さつまあげ、鮭のごまふり、鯛の飴干し
二人は同じやうな笑ひを感受しあつて
日本橋に立ちました。
日本橋! 日本橋
日本橋はよいところ
白い鴎が飛んでゐた。
二人はなぜか淋しく手を握りあつて歩いたのです
ガラスのやうに固い空気なんて突き破つて行かう
二人はどん底[#「どん底」に傍点]を唄ひながら
気ぜはしい街ではじけるやうに笑ひました。
[#改ページ]
馬鹿を言ひたい
――古里の両親に――
千も万も馬鹿を言ひたい……
千も万も馬鹿を吐鳴りたい……
只何とはなしに……
こんなにも元気な親子三人がゐて
一升の米の買へる日を数へるのは
何と云ふ切ない生きかただらう。
呆然と生きて来たのではないが
働き馬のやうに朝から晩まで
四足をつゝぱつて
がむしやらに
食べたい為に
只呆然と生きて来てしまつた!
親子三人そろつて
せめて
千も万も 千も万も
馬鹿を吐鳴つたらゆかいだらう。
[#改ページ]
酔醒
なつかしい世界よ!
わたしは今酔つてゐるんです。
下宿の壁はセンベイのやうに青くて
わたしの財布に三十銭はいつてゐる。
雨が降るから下駄を取りに行かう
私を酔はせてあの人は
何も言はないから愛して下さいと云ふから
何も言はないで愛してゐるのに
悲しい……
明日の夜は結婚バイカイ所へ行つて
男をみつけませう――
わたしの下宿料は三十五
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