は淋しいのだ。ドクドクと流れ落ちる涙と、ガス[#「ガス」に傍点]のように抜けて行く悲しみの氾濫《はんらん》、何か正しい生活にありつきたいと思うなり。そうして落ちついて本を読みたいものだ。
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しゅうねく強く
家の貧苦、酒の癖、遊怠《あそび》の癖、
みなそれだ。
ああ、ああ、ああ
切りつけろそれらに
とんでのけろ、はねとばせ
私が何べん叫びよばった事か、苦しい、
血を吐くように芸術を吐き出して狂人のように踊りよろこぼう。
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槐多《かいた》はかくも叫びつづけている。こんなうらぶれた思いの日、チエホフよ、アルツイバアセフよ、シュニッツラア、私の心の古里を読みたいものだと思う。働くと云う事を辛いと思った事は一度もないけれど、今日こそ安息がほしいと思う。だが今はみんなお伽話《とぎばなし》のようなことだ。
薄暗い部屋の中に、私は直哉《なおや》の「和解」を思い出していた。こんなカフエーの雑音に巻かれていると、日記をつける事さえおっくう[#「おっくう」に傍点]になって来ている。――まず雀が鳴いているところ、朗かな朝陽が長閑《のどか》に光っているとこ
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