な竹が七本ばかりついている。毎日平均二十本位はかたづけていった。緑色のペンキのはげた社宅の細君よりも、坑夫長屋をまわった方がはるかに扇子はさばけていった。外にラッパ長屋と云って、一棟に十家族も住んでいる鮮人長屋もあった。アンペラの畳の上には玉葱《たまねぎ》をむいたような子供達が、裸で重なりあって遊んでいた。
烈々とした空の下には、掘りかえした土が口を開けて、雷のように遠くではトロッコの流れる音が聞えている。昼食時になると、蟻《あり》の塔のように材木を組みわたした暗い坑道口から、泡《あわ》のように湧《わ》いて出る坑夫達を待って、幼い私はあっちこっち扇子を売りに歩いた。坑夫達の汗は水ではなくて、もう黒い飴《あめ》のようであった。今、自分達が掘りかえした石炭土の上にゴロリと横になると、バクバクまるで金魚のように空気を吸ってよく眠った。まるでゴリラの群のようだった。
そうしてこの静かな景色の中に動いているものと云えば、棟を流れて行く昔風なモッコである。昼食が終るとあっちからもこっちからもカチュウシャの唄が流れて来ている。やがて夕顔の花のようなカンテラの灯が、薄い光で地を這って行くと、けたた
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