私はこんな詩を頭に描いた。下で三時の鳩時計が鳴っている。

        *

(六月×日)
 世界は星と人とより成る。エミイル・ヴェルハアレンの「世界」と云う詩を読んでいるとこんな事が書いてあった。何もかもあくび[#「あくび」に傍点]ばかりの世の中である。私はこの小心者の詩人をケイベツしてやりましょう。人よ、攀《よ》じ難いあの山がいかに高いとても、飛躍の念さえ切ならば、恐れるなかれ不可能の、金の駿馬《しゅんめ》をせめたてよ。――実につまらない詩だけれども、才子と見えて実に巧《うま》い言葉を知っている。金の駿馬をせめたてよか……窓を横ぎって紅い風船が飛んで行く。呆然たり、呆然たり、呆然たりか……。何と住みにくい浮世でございましょう。
 故郷より手紙が来る。
 ――現金主義になって、自分の口すぎ位はこっちに心配をかけないでくれ。才と云うものに自惚《うぬぼ》れてはならない。お母さんも、大分衰えている。一度帰っておいで、お前のブラブラ主義には不賛成です。――父より五円の為替。私は五円の為替を膝《ひざ》において、おありがとうござります。私はなさけなくなって、遠い故郷へ舌を出した。

(六月×
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