たり笑ったり、おどけたり、ふと窓を見ると、これは又奇妙な私の百面相だ。ああこんなに面白い生き方もあったのかと、私は固いクッションの上に坐りなおすと、飽きる事もなく、なつかしくいじらしい自分の百面相に凝視《みい》ってしまった。

        *

(五月×日)
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私はお釈迦様に恋をしました
仄《ほの》かに冷たい唇に接吻すれば
おおもったいない程の
痺《しび》れ心になりまする。

もったいなさに
なだらかな血潮が
逆流しまする。

心憎いまでに落ちつきはらった
その男振りに
すっかり私の魂はつられてしまいました。

お釈迦様!
あんまりつれないではござりませぬか
蜂《はち》の巣のようにこわれた

私の心臓の中に
お釈迦様
ナムアミダブツの無常を悟すのが
能でもありますまいに
その男振りで
炎のような私の胸に
飛びこんで下さりませ
俗世に汚れた
この女の首を
死ぬ程抱きしめて下さりませ
ナムアミダブツのお釈迦様!
[#ここで字下げ終わり]

 妙に侘しい日だ。気の狂いそうな日だ。天気のせいかも知れない。朝から、降りどおしだった雨が、夜になると風をまじえて、身も心も、
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