降りてみたいなと思うなり。静岡にしようか、名古屋にしようか、だけど何だかそれも不安で仕方がない。暗い窓に凭《もた》れて、走っている人家の灯を見ていると、暗い窓にふっと私の顔が鏡を見ているようにはっきり写っている。
[#ここから2字下げ]
男とも別れだ!
私の胸で子供達が赤い旗を振っている
そんなによろこんでくれるか
もう私はどこへも行かず
皆と旗を振って暮らそう。
皆そうして飛び出しておくれ、
そして石を積んでくれ
そして私を胴上げして
石の城の上に乗せておくれ。
さあ男とも別れだ泣かないぞ!
しっかりしっかり旗を振ってくれ
貧乏な女王様のお帰りだ。
[#ここで字下げ終わり]
外は真暗闇だ。切れては走る窓の風景に、私は目も鼻も口も硝子《ガラス》窓に押しつけて、塩辛い干物のように張りついて泣いていた。
私は、これからいったい何処《どこ》へ行こうとしているのかしら……駅々の物売りの声を聞くたびに、おびえた心で私は目を開けている。ああ生きる事がこんなにむずかしいものならば、いっそ乞食にでもなって、いろんな土地土地を流浪して歩いたら面白いだろうと思う。子供らしい空想にひたっては泣い
前へ
次へ
全531ページ中61ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 芙美子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング