少しあの窓の下では、微笑《ほほえ》んでもいいでしょう――。
二畳の部屋には、土釜《どがま》や茶碗や、ボール箱の米櫃《こめびつ》や行李《こうり》や、そうして小さい机が、まるで一生の私の負債のようにがんばっている。ななめにしいた蒲団の上には、天窓の朝陽がキラキラ輝いていて、埃が縞のようになって私の顔の上へ流れて来る。いったい革命とは、どこを吹いている風なのだ……中々うまい言葉を沢山知っている、日本の自由主義者よ。日本の社会主義者は、いったいどんなお伽噺《とぎばなし》を空想しているのでしょうか?
あの生れたての、玄米パンよりもホヤホヤな赤ん坊達に、絹のむつき[#「むつき」に傍点]と、木綿のむつき[#「むつき」に傍点]と一たいどれだけの差をつけなければならないのだろう!
「あんたは、今日は工場は休みなのかい?」
叔母さんが障子を叩きながら呶鳴《どな》っている。私は舌打ちをすると、妙に重々しく頭の下に両手を入れて、今さら重大な事を考えたけれど、涙が出るばかりだった。
母の音信一通。
たとえ五十銭でもいいから送ってくれ、私はリュウマチで困っている。この家にお前とお父さんが早く帰って来る
前へ
次へ
全531ページ中41ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 芙美子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング