。
「来年はお前の運勢はよかぞな、今年はお前もお父さんも八方|塞《ふさが》りだからね……」
明日から、この八方塞りはどうしてゆくつもりか! 運勢もへちまもあったものじゃない。次から次から悪運のつながりではありませんかお母さん!
腰巻も買いたし。
(五月×日)
家のかしまはあまり汚ない家なので誰もまだ借りに来ない。お母さんは八百屋が貸してくれたと云って大きなキャベツを買って来た。キャベツを見るとフクフクと湯気の立つ豚カツでもかぶりつきたいと思う。がらんとした部屋の中で、寝ころんで天井を見ていると、鼠のように、小さくなって、色んなものを食い破って歩いたらユカイだろうと思った。夜、風呂屋で母が聞いて来たと云って、派出婦にでもなったらどんなものかと相談していた。それもいいかも知れないけれど、根が野性の私である。金持ちの家風にペコペコ頭をさげる事は、腹を切るより切ない事だ。母の侘《わび》し気な顔を見ていたら、涙がむしょうにあふれてきた。
腹がへっても[#「腹がへっても」に傍点]、ひもじゅうない[#「ひもじゅうない」に傍点]とかぶりを振っている時ではないのだ。明日から、今から飢えて行く私
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