高崎に着くと、私の周囲の空席に、旅まわりの芸人風な男女が四人で席を取った。私はボンヤリ彼等を見ていた。彼達は、私とあまり大差のないみすぼらしい姿である。上の網棚には、木綿の縞の風呂敷でくるんだ古ぼけた三味線と、煤《すす》けたバスケットが一つ、彼達の晒された生活を物語っていた。
「姐御《あねご》はこっちに腰掛けたら……」
 同勢四人の中の、たった一人の女である姐御と呼ばれた彼女は、つぶしたような丸髷《まるまげ》に疲れた浴衣である。もう三十二三にはなっているのだろう、着崩れた着物の下から、何か仇《あだ》めいた匂いがして窶《やつ》れた河合武雄と云ってもみたい女だった。その女と並んで、私の向う横に腰かけたつれの男は額がとても白い。紺縮みの着物に、手拭のように細いくたびれた帯をくるくる巻いて、かんしょうに爪をよく噛《か》んでいた。
「ああとてもひでえ目にあったぜ。」
 目玉のグリグリした小さい方が、ひとわたり周囲をみまわして大きい方につぶやくと、汽車は逆もどりしながら、横川の駅に近くなった。この芸人達は、寄席芸人の一行らしいのだ。向うの男と女は、時々思い出したようにボソボソ話しあっていた。「アレ
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