しょう。」
 その後銀座の方に働いていたと云うお君さんには若い学生の恋人が出来ていた。
「私はいよいよ決心したのよ、今晩これから一寸遠くへ都落ちするつもりで、実は貴女の顔を見に来たの。」
 こんなにも純情なお君さんがうらやましくて仕方がない。何もかも振り捨てて私は生れて初めて恋らしい恋をしたのだわ。ともお君さんは云うなり。
「子供も捨てて行くの?」
「それが一番身に堪《こた》えるんだけれども、もうそんな事を言ってはおられなくなってしまったのよ。子供の事を思うと空おそろしくなるけれど、私とても、とても勝てなくなってしまったの。」
 お君さんの新らしい男の人は、あんまり豊かでもなさそうだったけれど、若者の持つりりしい強さが、あたりを圧していた。
「貴女も早く女給なんてお止《よ》しなさい、ろくな仕事じゃアありませんよ。」
 私は笑っていた。お君さんのように何もかも捨てさる情熱があったならば、こんなに一人で苦しみはしないとおもう。お君さんのお養母さんと、御亭主とじゃ、私のお母さんの美しさはヒカクになりません。どんなに私の思想の入れられないカクメイが来ようとも、千万人の人が私に矢をむけようとも、
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