な淋しさである。私は口笛を吹きながら遠く走る島の港を見かえっていた。岸に立っている二人の黒点が見えなくなると、静かなドックの上には、ガアン、ガアンと鉄を打つ音がひびいていた。尾道についたら半分高松へ送ってやりましょう。東京へかえったら、氷屋もいいな、せめて暑い日盛りを、ウロウロと商売をさがして歩かないように、この暮は楽に暮したいものだ。私は体を延ばして走る船の上から波に手をひたしていた。手を押しやるようにして波が白くはじけている。五本の指に藻《も》がもつれた糸のようにからまって来る。
「こんどのストライキは、えれえ短かかったなあ――」
「ほんまに、どっちも不景気だけんな。」
 船員達が、ガラス窓を拭きながら話している。私はもう一度ふりかえって、青い海の向うの島を眺めていた。

        *

(四月×日)
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――その夜
カフエーの卓子《テーブル》の上に
盛花のような顔が泣いた
何のその
樹の上にカラスが鳴こうとて

――夜は辛い
両手に盛られた
わたしの顔は
みどり色の白粉《おしろい》に疲れ
十二時の針をひっぱっていた。
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 横浜に
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