た。のろい閑散な夜汽車に乗って退屈していると、こんなにユカイなコントがめっかった。眠る。
(七月×日)
久し振りで見る高松の風景も、暑くなると妙に気持ちが焦々《いらいら》してきて、私は気が小さくなってくる。どことなく老いて憔悴《しょうすい》している母が、第一番に言った言葉は、「待っとったけん! わしも気が小さくなってねえ……」そう云って涙ぐんでいた。今夜は海の祭で、おしょうろ流しの夜だ。夕方東の窓を指さして、母が私を呼んだ。
「可哀そうだのう、むごかのう……」
窓の向うの空に、朝鮮牛がキリキリぶらさがっている。鰯雲《いわしぐも》がむくむくしている波止場の上に、黒く突き揚った船の起重機、その起重機のさきには一匹の朝鮮牛が、四足をつっぱって、哀れに唸《うな》っている。
「あんなのを見ると、食べられんのう……」
雲の上にぶらさがっているあの牛は、二三日の内には屠殺《とさつ》されてしまって、紫の印を押されるはずだ。何を考えているのかしら……。船着場には古綿のような牛の群が唸っていた。
鰯雲がかたくりのように筋を引いてゆくと、牛の群も何時《いつ》か去ってゆき、起重機も腕を降ろしてしまっ
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