たを世話してあげようと云う先生の言葉だったけれど、その手紙は薄ずみで書いた断り状だった。
文士って薄情なのかも知れない。
夕方新宿の街を歩いていると、何と云うこともなく男の人にすがりたくなっていた。(誰か、このいまの私を助けてくれる人はないものなのかしら……)新宿駅の陸橋に、紫色のシグナルが光ってゆれているのをじっと見ていると、涙で瞼《まぶた》がふくらんできて、私は子供のようにしゃっくり[#「しゃっくり」に傍点]が出てきた。
何でも当ってくだけてみようと思う。宿屋の小母さんに正直に話をしてみた。仕事がみつかるまで、下で一緒にいていいと言ってくれた。
「あんた、青バスの車掌さんにならないかね、いいのになると七十円位這入るそうだが……」
どこかでハタハタでも焼いているのか、とても臭いにおいが流れて来る。七十円もはいれば素敵なことだ。とにかくブラさがるところをこしらえなくてはならない……。十|燭《しょく》の電気のついた帳場の炬燵《こたつ》にあたって、お母アさんへ手紙を書く。
――ビョウキシテ、コマッテ、イルカラ、三円クメンシテ、オクッテクダサイ。
この間の淫売婦が、いなりずしを頬
前へ
次へ
全531ページ中25ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 芙美子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング