たを世話してあげようと云う先生の言葉だったけれど、その手紙は薄ずみで書いた断り状だった。
 文士って薄情なのかも知れない。
 夕方新宿の街を歩いていると、何と云うこともなく男の人にすがりたくなっていた。(誰か、このいまの私を助けてくれる人はないものなのかしら……)新宿駅の陸橋に、紫色のシグナルが光ってゆれているのをじっと見ていると、涙で瞼《まぶた》がふくらんできて、私は子供のようにしゃっくり[#「しゃっくり」に傍点]が出てきた。
 何でも当ってくだけてみようと思う。宿屋の小母さんに正直に話をしてみた。仕事がみつかるまで、下で一緒にいていいと言ってくれた。
「あんた、青バスの車掌さんにならないかね、いいのになると七十円位這入るそうだが……」
 どこかでハタハタでも焼いているのか、とても臭いにおいが流れて来る。七十円もはいれば素敵なことだ。とにかくブラさがるところをこしらえなくてはならない……。十|燭《しょく》の電気のついた帳場の炬燵《こたつ》にあたって、お母アさんへ手紙を書く。
 ――ビョウキシテ、コマッテ、イルカラ、三円クメンシテ、オクッテクダサイ。
 この間の淫売婦が、いなりずしを頬
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