ベニのパパ、詐欺横領罪で引っぱられて行ったとの事だった。帰ってみると、一人の刑事が小さな風呂敷包みをこしらえていた。ベニは呆然としてそれを見ている。アパート中の内儀さん達が、三階のベニの部屋の前に群れてべちゃくちゃ云っている。人情とは、なぜかくも薄きものか、部屋代はとるだけ取って、別にこのアパートには迷惑も掛けていないと云うのに、あらゆる末梢《まっしょう》的な事を大きくネツゾウして、お上さん達は口々に何かつぶやいているのだ。刑事が帰って行くと、台所はアパートじゅうの女が口から泡を飛ばしているようだった。お妾さんは平然と三味線を弾いている。スッとした女なり。
「お姉さん! 私金沢へ帰るのよ、パパからの言伝《ことづ》けなの、そこはねえ、皆他人なんですのよ、だってまだ見ない親類なんて、他人より困るわねえ、本当はかえりたくないのよ。」
「そうね、こっちにいられるといいのにね。」
「アパートじゃ、じき立ちのいてくれって云うし……」
夜、ベニと貧しい別宴を張った。
「忘れないわ、二三年あっちでくらして、ぜひ東京へ来ようと思うの、田舎の生活なんて見当がつかないわ。」二人は、時間を早めに上野駅へ
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