てやるがどうだい。」
 羽二重のハッピをゾロリと着ながした一人の合百師が、私の手からペンを取って向うへ行ってしまった。
「アラ! そんないいもの……じゃアはいるわ、お金そんなにないから少しね。」
「ああ少しだよ、皆でおいなりさん買うんだってさ……」
「じゃ見せて!」
 相棒はペンを捨てて皆のそばへ行くと、大きいカンセイがおきる。
「さあ! 林さんいらっしゃいよ。」
 私も声につられて店の間へ行って見る。ハッピの裏いっぱいに描いた真赤な絵に私は両手で顔をおおうた。
「意気地がねえなア……」
 皆は逃げ出している私の後から笑っていた。

 夜。
 ひとりで、新宿の街を歩いた。

(七月×日)
「ああもしもし××の家《や》ですか? こちらは須崎ですがねイ、今日は一寸行かれませんから、明日の晩いらっしゃるそうです。××さんにそう云って下さいねイ。」
 又、重役が、どっか芸者屋へ電話をかけさせているのだろう、荻谷さんのねイがビンビンひびいている。
「ねイ! 林さん、今晩須崎さんがねイ、浅草をおごってくれるんですって……」
 私達は事務を早目に切りあげると、小僧一人を連れて、須崎と荻谷と私と四人で
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