の小僧が真似をしては笑う。お昼の弁当も美味《うま》し、鮭《さけ》のパン粉で揚げたのや、いんげんの青いの、ずいきのひたし、丹塗《にぬ》りの箱を両手にかかえて、私は遠いお母さんの事を思い出していた。

 ニイカイ[#「ニイカイ」に傍点] サンヤリ!
 自転車で走って小僧がかえって来ると、店の人達は忙がしそうにそれを黒板に書きつけたり電話をしている。
「奥のお客さんにお茶を一ツあげて下さい。」
 重役らしい人が私の肩を叩いて奥を指差す。茶を持ってドアをあけると、黒眼鏡をかけた色の白い女のひとが、寒暖計の表のような紙に、赤鉛筆でしるしをつけていた。
「オヤ! これはありがとう、まあ、ここには女の人もいるのね、暑いでしょう……」
 黒ずくめの恰好をした女のひとは、帯の間から五十銭銀貨二枚を出すと、氷でも召し上れと云って、私の掌にのせてくれた。
 こんなお金を月給以外にもらっていいのかしら……前の重役らしい人に聞くと、くれるものはもらっておきなさいと云ってくれた。社の帰り、橋の上からまだ高い陽をながめて、こんなに楽な勤めならば勉強も出来ると思った。
「貴女はまだ一人なの?」
 袴をはいて靴を鳴らし
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