のたわごとが面白いと云っていた。十時頃、山の学校から帰って来ると、お養父さんが、弄花《はな》をしに行ってまだ帰らないのだと母は心配していた。こんな寒い夜でもだるま船が出るのか、お養父さんを迎えに町へ出てみると、雁木《がんぎ》についたランチから白い女の顔が人魂《ひとだま》のようにチラチラしていた。いっそ私も荒海に身を投げて自殺して、あの男へ情熱を見せてやろうかしらとも思う、それともひと思いに一直線に墜落して、あの女達の群にはいってみようかと思う。
(一月×日)
島で母達と別れると、私は磯づたいに男の村の方へ行った。一円で買った菓子折を大事にかかえて因《いん》の島《しま》の樋《とい》のように細い町並を抜けると、一月の寒く冷たい青い海が漠々と果てもなく広がっていた。何となく胸の焼ける思いなり。あのひととはもう三カ月も会わないのだもの、東京での、あの苦しかった生活をあのひとはすぐ思い出してくれるだろう……。丘の上は一面の蜜柑《みかん》山、実のなったレモンの木が、何か少女時代の風景のようでとてもうれしかった。
牛二匹。腐れた藁《わら》屋根。レモンの丘。チャボが花のように群れた庭。一月の太陽
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