慾と性慾! 私は泣きたい気持ちで、この言葉を噛んでいた。

(二月×日)
[#ここから2字下げ]
何にも云わないでかんにんして下さい。指輪をもらった人に脅迫されて、浅草の待合に居ります。このひとにはおくさんがあるんですけれど、それは出してもいいって云うんです。笑わないで下さいね。その人は請負師で、今四十二のひとです。
着物も沢山こしらえてくれましたの、貴女の事も話したら、四十円位は毎月出してあげると云っていました。私嬉しいんです。
[#ここで字下げ終わり]

 読むにたえない時ちゃんの手紙の上に私はこんな筈ではなかったと涙が火のように溢《あふ》れていた。歯が金物のようにガチガチ鳴った。私がそんな事をいつたのんだのだ! 馬鹿、馬鹿、こんなにも、こんなにも、あの十八の女はもろかったのかしら……目が円くふくれ上って、何も見えなくなる程泣きじゃくっていた私は、時ちゃんへ向って心で呼んで見た。
 所を知らせないで。浅草の待合なんて何なのよッ。
 四十二の男なんて!
 きもの、きもの。
 指輸もきものもなんだろう。信念のない女よ!
 ああ、でも、野百合のように可憐であったあの可愛い姿、きめの柔かい
前へ 次へ
全531ページ中172ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 芙美子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング