箱火鉢で茶をあたためて時間はずれの御飯をたべる。もう一時すぎなのに――。昨夜は二時、おとといは一時半、いつも十二時半にはきちんと帰っていた人が、時ちゃんに限ってそんな事もないだろうけれど……。茶ブ台の上には書きかけの原稿が二三枚散らばっている。もう家には十一銭しかないのだ。
 きちんきちんと、私にしまわせていた十円たらずのお金を、いつの間にか持って出てしまって、昨日も聞きそこなってしまったけれど、いったいどうしたのかしらと思う。
 蒸してはおろし蒸してはおろしするので、うむし釜の御飯はビチャビチャしていた。蛤鍋《はまぐりなべ》の味噌も固くなってしまった。私は原稿も書けないので、机を鏡台のそばに押しやって、淋しく床をのべる。ああ髪結さんにも行きたいものだ。もう十日あまりも銀杏返しをもたせているので、頭の地がかゆくて仕方がない。帰って来る人が淋しいだろうと、電気をつけて、紫の布をかけておく。
 三時。
 下のお上さんのブツブツ云う声に目を覚ますと、時ちゃんが酔っぱらったような大きな跫音《あしおと》で上って来た。酔っぱらっているらしい。
「すみません!」
 蒼《あお》ざめた顔に髪を乱して、紫
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