てこよう。童話が行ってるから。」
「もらえたら、熱いものをこしらえといて、あっちこっち行って見るから、私はおそくなることよ。」
初めて、隣の六畳の古着屋さん夫婦にもあいさつ[#「あいさつ」に傍点]をする。鳶《とび》の頭《かしら》をしていると云う階下のお上さんの旦那にも会う。皆、歯ぎれがよくて下町人らしい人達だ。
「この家も前は道路に面していたんですよ。でも火事があってねえ、こんなとこへ引っこんじゃって……うちの前はお妾《めかけ》さん、路地のつきあたりは清元でこれは男の師匠でしてね、やかましいには、やかましゅうござんすがね……」
私はおはぐろで歯をそめているお上さんを珍らしく見ていた。
「お妾さんか、道理で一寸見たけどいい女だったわよ。」
「でも階下の小母さんがあんたの事を、この近所には一寸居ない、いい娘ですってさ。」
二人は同じような銀杏返しをならべて雪の町へ出て行った。雪はまるで、気の抜けた泡《あわ》のように、目も鼻もおおい隠そうとする程、やみくもに降っている。
「金もうけは辛いね。」雪よドンドン降ってくれ、私が埋まる程、私はえこじに傘をクルクルまわして歩いた。どの窓にも灯のつ
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