ない程心配になるのかも知れない。反感がおきる程、先生が赤ん坊にハラハラしているのを見ると、女中なんて一生するものではないと思った。
うまごやし[#「うまごやし」に傍点]にだって、可憐《かれん》な白い花が咲くって事を、先生は知らないのかしら……。奥さんは野そだちな人だけれど、眠ったようなひとで、この家では私は一番好きなひとである。
(十二月×日)
ひま[#「ひま」に傍点]が出るなり。
別に行くところもない。大きな風呂敷包みを持って、汽車道の上に架った陸橋の上で、貰った紙包みを開いて見たら、たった二円はいっていた。二週間あまりも居て、金二円也。足の先から、冷たい血があがるような思いだった。――ブラブラ大きな風呂敷包みをさげて歩いていると、何だかザラザラした気持ちで、何もかも投げ出したくなってきた。通りすがりに蒼《あお》い瓦葺《かわらぶ》きの文化住宅の貸家があったので這入ってみる。庭が広くて、ガラス窓が十二月の風に磨いたように冷たく光っていた。
疲れて眠たくなっていたので、休んで行きたい気持ちなり。勝手口を開けてみると、錆《さ》びた鑵詰《かんづめ》のかんから[#「かんから」に傍点]
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