ものだった。――鳩が足元近く寄って来ている。人生鳩に生れるべし。私は、東京の生活を思い出して涙があふれた。
 一生たったとて、いったい何時の日には、私が何千円、何百円、何十円、たった一人のお母さんに送ってあげる事が出来るのだろうか……、私を可愛がって下さる、行商をしてお母さんを養っている気の毒なお義父《とう》さんを慰めてあげる事が出来るのだろうか……、何も満足に出来ない私である。ああ全く考えてみれば、頭が痛くなる話だ。「もし、あんたはん! 暑うおまっしゃろ、こっちゃいおはいりな……」噴水の横の鳩の豆を売るお婆さんが、豚小屋のような店から声をかけてくれた。私は人なつっこい笑顔で、お婆さんの親切に報いるべく、頭のつかえそうな、アンペラ張りの店へはいって行った。文字通り、それは小屋のような処《ところ》で、バスケットに腰をかけると、豆くさいけれども、それでも涼しかった。ふやけた大豆が石油|鑵《かん》の中につけてあった。ガラスの蓋をした二ツの箱には、おみくじや、固い昆布《こんぶ》がはいっていて、それらの品物がいっぱいほこりをかぶっている。
「お婆さん、その豆一皿くださいな。」
 五銭の白銅を置く
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