もうそんな影のうすい不具者なんか出してしまいなさい! 何だかそんな可憐《かれん》な子供達のささくれた白粉の濃い顔を見ていると、たまらない程、私も誰かにすがりつきたくなる。
(十一月×日)
奥で三度御飯を食べると、主人のきげんが悪いし、と云って客におごらせる事は大きらいだ。二時がカンバンだって云っても、遊廓《ゆうかく》がえりの客がたてこむと、夜明けまでも知らん顔をして主人はのれん[#「のれん」に傍点]を引っこめようともしない。コンクリートのゆか[#「ゆか」に傍点]が、妙にビンビンして動脈がみんな凍ってしまいそうに肌が粟立《あわだ》ってくる。酸っぱい酒の匂いが臭くて焦々する。
「厭になってしまうわ。……」
初ちゃんは袖をビールでビタビタにしたのを絞りながら、呆然とつっ立っていた。
「ビール!」
もう四時も過ぎて、ほんとになつかしく、遠くの方で鶏の鳴く声がしている。新宿駅の汽車の汽笛が鳴ると、一番最後に、私の番で銀流しみたいな男がはいって来た。
「ビールだ!」
仕方なしに、私はビールを抜いて、コップになみなみとついだ。厭にトゲトゲと天井ばかりみていた男は、その一杯のビールをグイと
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