女の頃のことをふっとおもい出すのでした。
 これから女の人生が始まろうとする、色々な不思議さのなかに、来潮と云うものが、どんなにわたしたちを吃驚させたことでしょう。来潮の来るころの年齢は、たいてい十七、八歳の頃でしょうけれど、このころの女の理性と云うものは、ずいぶん重たい花粉をつけて、重たい花べんとをのせているものだったとおもいます。貞操と云うことを、おぼろげに考え始めて来ます。そうして、理由のない苦痛が、この年齢にはきびしいほどおとずれて来ます。わたしは、その強盗をした少女のことも、罪は罪としても、何だか、ほほ笑《え》ましいものを感じるのでした。女の犯罪として、案外一番すくないのは治安維持法違反と、文書偽造、兌換《だかん》券偽造とか云った罪名でした。殺人の二十三人と云うのはいったいどうしたことかとわたしは暗然となるのです。
 教誨師の方々の話をきいてみると、殺人をした女囚と云うのは、たいてい田舎のひとが多くて、しかも百姓の女のひとが多いのだと云うことでした。
 いままで気を合せてせっせと働いていた百姓の夫婦者が、すこしばかり生活が楽になってくると、良人《おっと》が他に女をつくり、家を
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