みせて貰った、現犯時の年齢と罪名《ざいめい》と云う統計書には、殺人が二十三人もあり、詐欺が十六人もあるのです。しかも一番多い犯罪としては、四十四人の放火と、六十八人の窃盗《せっとう》罪です。
幸福なあなたたちは、こんな罪のひとたちをどんなふうにお考えでしょう。わたしは、獄内をまわりながら、働いているその人たちを見るにしのびない苦しいものを感じました。同性の故かもしれません。これらのひとたちは、罪に服していると云う気持ちのせいか、案外明るい感じでしたけれど、そのひとたちと違う服装のわたくしを見て、そのひとたちは気持ちを悪くしやしないかしらと、わたしはそんな負目《おいめ》さえ感じて、みんなをじろじろみる事がどうしても出来ない気持ちなのです。
わたしがここで一番胸をうたれたのは、独房のなかで赤ん坊を背負ってのし[#「のし」に傍点]をつくっている若い女のひとの姿でした。太い格子のなかは、頭と膝《ひざ》だけがみえる造りになっていて、真中の板戸には、ほんの眼だけみえる小窓がついていましたけれど、ここからちらと覗《のぞ》いた女のひとの眼の美しさに、わたしは暫くは誘われるように、その独房の前に立ち
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