に差し出していると云う、そんなはかない[#「はかない」に傍点]生活《くらし》なので、躯工合でも悪くなると、あれこれと考えるのだが、まあ、米の飯とお天道《てんとう》様はついてまわるだろうと思っている。月黒うして雁《かり》飛ぶこと高しで、どんなみじめな日が来ても、元々裸身ひとつ故、方法はどのようにもなるだろう。
頃日、机に向っていると、矢折れ刀つきた落莫《らくばく》たる気持ちだけれども、それは、自分で這入りいい処をただがさがさと摸索していたに過ぎないのだ。唯一の目的は、まだ遠くにあるのだけれども、所帯を持っていると、今日は今日はで呆んやり暮らして、洗濯ごとや、台所ごとの地帯にいやに安住して眼をほそくしている。
私は「清水の如く特殊の味なし」の仕事を念願しているのだけれども、手踊りがめだつ、嘘やつくり[#「つくり」に傍点]がめだって、何とも苦しくて仕方がない。女と云うものは力が足りないのかも知れぬ。癖の渝《かわ》らないことは勉強が足りないのだろうけれども、私は、前にも云ったとおり、こんな日向ぼっこをしているような文化生活は困ってしまうのだ。男の作家たちに拮抗《きっこう》してゆこうなどとは
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