とは何とも云えない。私は静物はあまりうまくない。素人にしてはのイキ[#「イキ」に傍点]だそうだけれども、その辺がちょうど面白いところで、描いていると、美しい色をつかっている絵描きがうらやましくなって来る。
 マチス、モジリアニが好きで、色刷りを時々出して眺めている。この間は、萬鉄五郎《よろずてつごろう》氏の絵を二枚もとめた。萬さんのような仕事をしたいものだと、その絵を見るたびにシゲキさせられるのだけれども、私はなまけもので仕方がない。自分の行末《ゆくすえ》、自分の書くもの、皆々よく判っているけれども、雨か風でもきびしくあたってこないことには、このなまけものは、なかなか腰をあげそうにもないのだ。今年は何も書きたくない。私はいま世界地図を拡げて、印度《インド》へ行く事を計画している。秋頃には、欧洲へ行った時のように、気軽に船出したいものだと思っている。何度でも初旅のような気持ちで、私は随分|方々《ほうぼう》へ行った。貯っているだろうと訊くひともあるが、貯っているのは、宿屋の勘定書き位で、全くもって、その日暮らしなのである。云えば、雌|山羊《やぎ》の乳をしぼれば、他の者が篩《ふるい》をその下
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