出来たし、胃が弱くなって、深酒《ふかざけ》をすると、翌《あく》る日は一日台なしになってしまう。それでもすらすら仕事の出来た後は、どんな無理なことも「はいはい」と承知してあげて、酒も愉しく上手に飲む。仕事の後の酒は吾《わ》れながらおいしい。酒は盃のねばる酒がきらい。食べものは何でもたべるけれどもまぐろのお刺身が困る。好きなのはこのわた[#「このわた」に傍点]で熱い御飯だけれど、このわた[#「このわた」に傍点]は高くて困る。お金がはいったら鼻血が出るほどたべてみたいと思う。からすみ[#「からすみ」に傍点]も好きだけれども、これも高い。うに[#「うに」に傍点]はそんなに好きじゃない。塩魚が好き、塩魚を見ると小説を書きたくなる。何か雰囲気があるから好きだ。巴里《パリ》には上手に干した塩魚がなかった。
芝居も活動も子供の時からきらい。母親と女中だけは近所の活動へこまめに出かけて行く。――絵を描くことは私の仕事の二番目で、石油の中で、固くなっている筆を洗っている時は、むずかしい顔をしたことがない。小林秀雄《こぼやしひでお》、永井龍男両氏に、絵をあげる約束をしているので、その絵のことを考えているこ
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