知らないけれども、屋根の上が煙ったように明るくなるとすぐ鶯が啼き、牛乳屋の車の音が浸《し》み透るようにきこえて来る。牛乳は二本取っている。母親と私がごくんごくん飲むのだ。牛乳配達や、新聞配達、郵便配達、寒い時は、気の毒になってしまう。夜明けの景色はいいけれども、徹夜をすると、私はまるで皮でもかぶっているように気色が悪い。
 朝御飯はたいてい牛乳。本当に御飯をたべるのが九時頃。御飯は女中が焚《た》き、味噌汁は私が焚く。幸せだと思う。仕事が忙がしくなって、台所へ二、三日出ないと、皆、抜けた顔をしている。私は料理がうまい。楽屋でほめては実《み》も蓋《ふた》もないが、料理はやっていて面白い。
 昼間は仕事が出来ないので困る。昼間、仕事が出来ると、近眼《ちかめ》にも大変いいのだけれども、昼間はひと[#「ひと」に傍点]がみんな起きているから、つい何もしないで遊んでしまう。忙がしくって困っても、友達が来ると遊んでしまう。友達が来てくれることは何よりもうれしい。日に十人位は色々の人が見える。疲れると勝手に横になって眠る。
 家へ来るひとは、男のひとたちが多い。大変シゲキがある。――酒は飲まない。虫歯が
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