のびのびとしていた。スキーは下手だけれども、暴力的なあの雪を蹴ってゆく気持ちが好きだ。自然と自分とに距離がなくなる。十二沢のゲレンデで、私位よく、勇ましく転んだ者はないと云うことであった。温泉へ這入《はい》ると、躯じゅう青や紫のあざ[#「あざ」に傍点]だらけになっていて、さすがに転びスキーがはずかしかった。
二月は、伊豆の古奈《こな》へ行った。丹那《たんな》トンネルは初めてなので、熱海《あたみ》を出るときから嬉しくて仕方がなかった。八分位かかると聞いたけれども、随分ながいトンネルのような気がした。
熱海の海の色は、ナポリみたいな色をしている。温くて呆んやりしていて、磯《いそ》はマチスの絵にあるような渚《なぎさ》だ。――古奈では白石館と云うのに泊った。ここでは芸者が一時間壱円で、淋しかったのでてるは[#「てるは」に傍点]と云うひとに三時間ほどいて貰った。
三月は上州《じょうしゅう》の方へ行って見たい。旅をしていると、生れて来た幸せを感じるほどだ。家人は、弁当が食べたいからだろうと云う。私は汽車へ乗ると弁当をよく買う。木の匂いがして御飯もおかずもおいしい。汽車へ乗っていると、日頃の倦
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