て、湯のわくあいだ、私は三ツの夕刊に眼をとおすのだ。うちでとっているのは、朝日新聞、日日新聞、読売新聞の三ツで、まず眼をとおすのは、芝居や活動の広告のようなものだ。女の心[#「女の心」に傍点]がある、行ってみたいなと思う。永遠の誓い[#「永遠の誓い」に傍点]と云うのがある、みんな観に行きたいと思いながら、その広告が場末《ばすえ》の小舎《こや》にかかるまで行けないでしまうことがたびたびなのだ。
 広告を読み終ると三面記事を読む。その三面記事も一番下の小さい欄から読んでゆく。三ツの新聞に、同じような事が書いてあっても、どれも違う記事のように読めて面白くて仕方がない。政治欄はめったに読まない。だから私は、小学生よりも政治の事を知らない。――いつだったかも、日日新聞から、議会と云うものを観《み》せて貰った。入口では人の懐《ふところ》へまで手を入れて調べる人がいたり、場内へ這入《はい》ると、四囲《あたり》の空気が臭くて、じっとしていられなかった。真下に視下《みおろ》す議場では、居睡《いねむ》りをしている人や、肩を怖《い》からせてつかみあっている人たちがいた。それが議員と云う人たちなそうで、もう吃
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