生活
林芙美子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)室生《むろう》さんの

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)夜|更《ふ》けて

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから2字下げ]
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なににこがれて書くうたぞ
一時にひらくうめすもも
すももの蒼さ身にあびて
田舎暮らしのやすらかさ
[#ここで字下げ終わり]

 私はこのうたが好きで、毎日この室生《むろう》さんのうたを唱歌のようにうたう。「なににこがれて書くうたぞ」全く、このうたの通り、私はなににこがれているともなく、夜|更《ふ》けて、ほとんど毎日机に向っている。そうして、やくざなその日暮らしの小説を書いている。夕御飯が済んで、小さい女中と二人で、油ものは油もの、茶飲み茶碗は茶飲み茶碗と、あれこれと近所の活動写真の話などをしながらかたづけものをして、剪花《きりばな》に水を替えてやっていると、もうその頃はたいてい八時が過ぎている。三ツの夕刊を手にして、二階の書斎へあがって行くと、火鉢の火がおとろえている。炭をつぎ、鉄瓶《てつびん》をかけ
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