の方が長い事此の下宿にいましてね、女を横浜あたりのチャブ屋にやつていたらしいんですがよウ、此の間やつと呼んだんですよ」
「そいでまだ居るのかい?」
「いゝえ此間、間代を半分入れて、体にいゝからつて二人でどツか郊外の方に越して行きましたよ」
谷村さんは瞼の裏が熱くなつて来る程、癪にさわつて仕方がありませんでした。此の様なふしだらな事は、誰にも云えるものではありませんでしたし、谷村さんはめつちやくちやに腹が立つてなりませんでした。
本箱の上のメスを取つて、壁に投げつけたり、本を裂いてみたり、まるで虎のようになりました。そして女を愛すると云う事が、こんなにもくだらない事であつたのかと、谷村さんは初めての恋愛であるだけに、大変苦しみが深いようであるのです。
すると、太つちよの女はかつぽう[#「かつぽう」に傍点]着を顔に押し当てゝ泣き出してしまいました。
「何も君が泣く事はないじやアないか」
「貴方がそんなにしていらつしやると悲くなります」
「何も君にそんなに悲んで貰う理由なんかないよ」
「許して下さい」
「君は早く台所へさがつとくれよツ、何も僕は君から許してくれの何のつて言つて貰う理由な
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