若い妻君を脊負つて階下へ降りたものだと話してゐた。もんはきゝづらい思ひだつた。工藤はよつぽど、どうかしてゐるのではないかと思つた。いくら亡くなつてゐるとは云へ、自分の前で、何の遠慮もなくそんな話が出來るものだと思つた。あんまり莫迦にされてゐるやうなので、もんは「死んだひとにはかなひませんね」と云つた。外國の土地を踏んで來ると、こんなに自己本位な薄のろになつてしまふのかと、守一もしまひには默つてしまつた。いくらもんには甘えてゐるからと云つて、これではあんまり氣の毒だと、守一は怒つたやうな表情をしてゐた。工藤は二本のビールを飮むと、しよんぼりと歸へつて行つた。もんがあわてゝシヨールを肩にして工藤の後を追つて行つた。「そんなに醉つてゝ大丈夫ですか」もんが階段の下でよろよろしてゐる工藤の後から押すやうにして戸外へ出た。工藤は大丈夫ですよと云つた。「僕は、[#「「僕は、」は底本では「僕は、」]自分が君達に失禮だつた事もよく知つてゐます。知つてゐてどうにも話さなければ始末につかなかつたのです。わかりますか。もん女史もこれから元氣に暮し給へ、命さえあればまた逢へますよ。守一君にもよろしく。どうせ、守
前へ
次へ
全33ページ中31ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 芙美子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング