子姉さんみたいにもりもり大きくなるんだよ‥‥」
謙一は病氣と鬪ひながら、この淋しい海邊で暮してゐる若い埼子が可哀想でならなかつた。
謙一は埼子の家とは遠縁にあたつてゐて、早稻田にはいつた時から、ずつと埼子の家に下宿をしてゐた。謙一は埼子の姉のカツ子が好きで、大學を卒業して職につくことが出來たら、カツ子を妻に貰ひたいと考へてゐたのだ。
だけど、カツ子はいつの間にか平凡な見合ひをして地味な商家へとついで行つてしまつた。
掌中のものを盜まれたやうに、一時は氣拔けがして呆やりしてゐたけれど、謙一はすぐ立ちなほることも出來たし、また、以前のやうな規則正しい學生生活をとり戻すことも出來てゐた。
謙一とカツ子のあひだの、かすかな思慕の流れを、埼子はいつの間にか鋭敏に感じてゐて、ちやんと知つてゐた。その鋭敏さは、むしろ病的な位に「何か」をつけ加へて大きく考へてゐるらしい樣子でもある。
カツ子のやうにふとらなくてはいけないと云ふと、ふつと埼子が默つてしまつたのを、謙一はまた溜息をつきながら反省しなければならない。
「僕は、そのうち、もう一二度、千葉へ來ますよ、埼ちやんには、まだまだ、いろん
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