、いつまた東京へくるの?」
「さうね、一週間ぐらゐしてかな、向ふへ行くのは二月の末か三月の始めだから、まだ、度々こゝへはやつて來ますよ‥‥」
「やつてこなくてもいゝわ」
「どうして?」
「どうしてでも‥‥あなたは、自分でどんどん何でもおやりになれるし、ちやんと方向がきまつてゐて安心ぢやないの? 私は、もうこゝで死ぬる日を待つてるだけだもの、來てくれなくつてもいゝの‥‥」
「このごろ、埼ちやんは、どうかしてるよ。どうしてそんなにひがみ[#「ひがみ」に傍点]が強くなつたのかな?」
「失禮ね、ひがんでなんかゐないわ‥‥」
埼子は藤椅子から起きあがつて、乾いたタオルで胸や腕をこすつた。兩の乳房が、小學生の子供のやうに小さい。謙一は卓子の上の、もひとつのタオルで埼子の背中をこすつてやつた。
「カツ子姉樣はとてもふとつてたわね?」
「‥‥‥‥」
「今日はもう、カツ子姉樣の話をしてもいゝわ。みんなもうよそのひとなんだから‥‥」
埼子はオレンジ色のブラウスを着て、胸の黒い釦を一つづつはめながら、
「櫻内さんたちどうして?」
ときいた。
「さつき、中堀と爺やさんの案内で濱へ地引網を見に行つたんだけ
前へ
次へ
全25ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 芙美子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング