らと風に吹き散らされて、柔らかい、まるい膝小僧が薄あかく陽に光つてゐる。
 埼子は急に砂の上に立ちあがつた。背中にも胸にも砂がざりざりしてゐる。埼子は髮の毛をゆすぶり、頭髮の砂をはらひおとすと躯ぢゆうの砂だけは一粒でもおとさないやうにと、息をつめて家へ走つて行つた。
 埼子が變な恰好で濱邊から走つて來るのを、二階のサン・ルームから眺めてゐた謙一は、急いで梯子段を降りて行つてみた。
「埼ちやん、どうしたんだい、頬つぺたなんかふくらましたりして‥‥」
 縁側へ謙一が出てゆくと、埼子はいまにも、嘔吐のきさうな變な樣子をして、謙一に「早く、早く‥‥」と云つた。謙一はどうしていゝかわからないので、座敷へ走りこんでゐる埼子の後から急いでついていつてみた。埼子は座敷へ這入ると、謙一をふりかへつて、しばらくぢつとみつめてゐたけれど、急に羽織をぬぎ、足袋をぬいで、ぱつぱと躯を激しくゆすぶつてゐる。衿や、袖や、胸にたまつてゐた砂が、ざらざらと新しい疊の上に落ちこぼれた。
「どうしたンです?」
「あのねえ、あなたにお土産を持つて來たのよ‥‥」
 埼子は自分で躯をゆすぶりながら青くなつてゐた。謙一は呆れて埼子
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