‥‥」
鼻が低くつて、耳が小さくつて、おかしな子供であつた。ふてぶてしさがあつて、時々立ちどまりながら、私の袖につかまり、ゴム長の靴をぬいでは、汚水を道へあけるのであつた。遠い道を歩いたのか、その汚水にまぢつて、葉つぱのやうなものも靴の中から出るので、私は、すこしばかり止まつてその子供のすることを眺めてゐた。子供は如何にも物馴れた手つきで、輪になつた針金を首に巻いて、片方づつ靴の中から水を吐き出させると、また私と並んで歩きながら、
「十銭でも五銭でもいいンだよ」
と言つた。
「貴方はさうして、色々なひとからお金を貰つて歩くの?」
男の子は太々しくニヤリと笑つて、「さうでもないよ」と言ふのであつた。
堀に添つて歩いてゐると、水の流れが急で、雨が音をたてゝ白い飛沫をあげてゐる。私は、歩きながら、呆んやり堀川の流れを見て歩いてゐた。腹の中では、この子供が、わざわざ自分を呼びとめたことにこだわり、太々しい子供に何か一矢むくひてやりたかつた。
「貴方がさう言つて歩くと、誰だつてお金をくれるでしよ?」
「‥‥‥」
「私は、情ぶかくはないのだから駄目よ」
「どうして?」
「どうしてつて、貴方
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