あだ名がついたりしてきた。
むつき[#「むつき」に傍点]の世話から、着物のつくろひまで信一は一人でしなければならなかつた。幸福なことには一度も医者いらずな子供で、ちよつと腹工合を悪くしても、信一が帰つて診てやればすぐ子供の病気はよくなるのである。
出征する時分には子供はもうはやはふ[#「はふ」に傍点]やうになつてゐたけれど、今度だけは近所へあづけてゆくわけにもゆかないので、信一は子供を里子に出すことにして出征したのであつた。
里子に出してしまへば、或ひはもうこのまま子供とは生き別れになるかも知れないと信一は思つてゐた。ひよいとして、自分は生命ながらへて戻つて来るとしても、子供は生きてはゐないだらうと思はれるのであつた。牛乳や、重湯でそだてることさへも大変な手数であるところへ、信一の子供は世間いつぱんの育児法と違つて、人蔘や、ほうれん草や、りんごの絞り汁を食べさせなければならない。信一は貯金を全部おろしてそれを子供へつけてやつた。御前崎の田舎へあづける工夫も考へないではなかつたけれども、兄は四人も子供を持つてゐたので信一はかへつて他人の家へ里子に出す事にしたのである。
三年目に
前へ
次へ
全19ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 芙美子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング