一人で大曾根まで子供に逢ひに行つてみたいと云ふと、信一も一緒に行かうと云ひ出して、二人は暮れの迫つた或る日曜日に、電車へ乗つて大曾根町へ行つた。電車の中は割合空いてゐた。絹子と信一の腰をかけてゐる前には、三人の子供を連れた夫婦が腰をかけてゐた。一番上の子は中学生らしく、胸に金釦のいつぱいついた外套を着てゐる。中は小学校六年生ぐらゐ、下は二年生ぐらゐででもあらうか、三人の男の子達は、父と母の間に腰をかけて熱田神宮へお参りをした話をしてゐた。父親は四十五六歳ぐらゐの年配で、肩から写真機をぶらさげたまま腕組みをして眠りこけてゐた。母親はよく肥えた柄の大きい婦人で、股を開いたやうにして窓へそり身になつて凭れてゐる。小さい子供が、吊革へぶらさがつたりするのを、時々たしなめては叱つてゐたが、子供達は時々母親の首へ手をかけては何か向ふへ着いてからのことをねだつてゐる風である。見てゐて、ほほゑましくなる風景であつた。絹子は、背中に汗がにじむやうな、くすぐつたいものを感じた。自分達の将来も、あの人達のやうに幸福にうまくゆくかしらと考へるのである。
信一は、窓外の方へ顔をむけてうつらうつらしてゐた。
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