は昔の陶器会社へ勤めをもつやうになつた。そして会社では薄呆んやりした片眼の視力をたよりに毎日ろくろを廻して働いてゐた。
絹子が結婚をした知らせを二宮へ知らせてやると、東京のお嬢さんから美しい小さい鏡台が贈りとどけられた。さうして添へられた手紙の中には、絹さんのやうな幸福なひとはないと思ふ、自分は結婚して始めて、実家にゐた時の何十倍と云ふ苦労をしてゐます。もう、再び娘にもどる事は出来ないけれども、あの時がなつかしいと思ひますと云ふ事が書いてあつた。美しいお嬢さんではあつたけれども、結婚した相手のひとは、仲々の道楽家で、お嬢さんもやつれてしまはれたと店のひとが絹子に話してゐた。
二階が六畳一間に、階下が六畳に四畳半に三畳。それに小さい風呂場もついてゐたし、狭いながらも小菊の咲いてゐる庭もある。
千種町の駅も近かつたし、この辺は割合物価も安かつた。
絹子は自分一人で信一の子供に逢ひに行つてみようと思つた。信一が何も云はないだけに信一の淋しさが自分の胸に響いて来たし、御前崎の砂浜でのことがはつきりと胸に浮んで来るのである。
子供は大曾根と云ふところの雑貨屋にあづけてあつた。
絹子が
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