云ふひとだなア。安並さんがどんな人なのかとくと見聞しておくのも第三者としていいことぢやないの。私がゆくんだつたら、とつくに安並さんともうここの座敷に二人で並んでゐますよ。寫眞を見たのがいけなければ、これから見料を出して札を買つて見なくちや、あんたの家へは遊びにゆけない事になるぢやないの……」
 氣嫌をなほしたのか杉枝はくすくす笑ひ出した。
「私、ここに放つてあるから、ひがんじまつたのよ」
「食物でひがむのなら判るけれど、まさか、旦那さまのことでひがむのないわねえ……」
 登美子は寫眞を取つて、薄いびらびらの紙も丁寧にかぶせて、杉枝の膝に、
「大事になさいよ」
 とそおつと置いた。
「姉さんは、安並さんの何處が氣に入らないの?」
 安並の何處が氣に入らないかと訊かれて、いまもいま、何處と云つて厭なところはなく、案外立派なひとだと思つて見てゐたところだつただけに、一寸、難をつける説明がみあたらない。
「寫眞より實物の方がとてもいい方だわ。しつかりしてゐて、きつと、姉さんの好きになるやうな方なの……」
「そうかしら、でも、私、この寫眞の蝶ネクタイが氣に入らないわ。蝶ネクタイをしてゐるひとにろ
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