から話をしようと思つた。登美子が手紙を出してから間もなくである、安並は飛行機で戻つて來た。三年以前とは安並も大分きびしく風貌がかはつてきてゐた。登美子の兩親は、登美子さへ行く氣持になつてくれればと云ふ意向であるらしく、登美子には何もめんだうな事は云はなかつた。
二三日して、安並の落ちついた樣子をみると、登美子が、安並を散歩に誘つた。明治節で何處の家にも國旗が出てゐてきれいな町である。小春日のあたたかい陽が町の後の山脈を銀色に照らしつけてゐた。
魚市場を拔けて、山あひの家々のひばの垣根ぎはの小徑をゆつくり寺の方へ登つてゆきながら、登美子は、安並にこんな事を云つた。
「私はもうおばあさんですよ……」
安並は吃驚したやうにふりかへつたが、急に歩みをとめて、
「ぢやア、僕が杖になつて上げませう」
と云つた。
「あら、もつたいない杖ですのね」
杖になつてもらふつもりではなく、私はもう年をとつてゐるから、貴方の奧さまになる資格はないのですと云ふつもりだつたのだ。安並は登美子のそばへ寄つて來て登美子の右腕をとつた。
腕をとられて、登美子は心のうちで恥づかしさうにうんうん唸つてゐる。胸に激
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