て來て、安並が、登美子を貰ひたいと云ふ手紙をよこしたけれども、あなたはどう思ひますかと藪から棒に訊きに來た。
「とてもいい手紙なの、安並さんは、是非、登美子さんを貰ひたいンですつて、よかつたら行つてあげて下さい」
「ええ、でも、また、私が敗血症になつてたふれるンぢやア……」
 心のなかでは、安並のところなら遠慮がないし、遠い思ひ出の人として心にのこつてゐる人だつたので行きたいとは思ひながら、登美子はまたこんな意地惡を云つてゐる。
 與田先生はむきになつて怒つて復つて行つた。登美子は與田先生の復つたあと、自分の部屋にはいつて暫く考へこんでゐた。考へがうまくまとまらないので.押入れにはいつて蒲團の上へ這ひあがると、暫く横になつてみた。肩の骨、腰の骨が何となく固くなつてゐる。氣やすく若さと云ふものをみくびつてゐるやうだけれども、自分は、安並に値しない女になつてゐるのかも知れないと思へた。
 安並の爲ならば、たとへどのやうになつてもお嫁にゆきたいと考へるのだけれど、年齡の臆病さなのか、登美子は迷つてばかりゐるのだ。
 いつペん、よく逢つて話をしたいと思つた。手紙を出して、一度復つて貰つて、それ
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