す事が出來ました。
人間はとてもおそろしい動物だとお母さんがいっていたけれど、本當だと思いました。だから、自分達の仲間は晝間は穴の中にひっこんでいて、人間にみつからないようにしているのだなと思いました。
狐は土間へ出て、縁の下からそとへ出ることが出來ました。まんまるいお月樣が高くのぼって、山の方でなつかしい梟の啼く聲がしています。
祖谷《いや》の山々が、こんもりとしていて、六兵衞よ、お母さんがとても心配しているから、早くかえっておいでといっているようにみえました。狐は急におなかがへってきましたし、頭のこぶは、しいたけみたいに大きくもりあがっていてとても熱をもっていました。
よろよろと歩いていますと、ある家のところで、もう、もう、もう、と、牛が啼いていました。
「ああ、桑助さんの家の赤兵衞さんだな。」と、狐が牛小舍の前へ來て「こんばんわ。」と聲をかけました。
すると、眠れないでいたとみえて、赤兵衞は口をもぐりもぐりうごかしながら、
「ああ、こんばんわ。どうしました。河口まで行ってみたのかね。」
と、やさしく牛はたずねるのです。
狐はひどいめにあって、いままで箱の中にいた話を
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